おはようございます。2徹してしまいました。九条です。
今回は、平成27年度の商業登記法の記述について見ていきます。
これは他の記事を書く上でも前提になりそうなので、早めに書かせていただくことにしました。
参考資料
参考記事
導入(出題疑義)
平成27年度商業登記法(記述)には出題疑義がありました。即ち出題ミスです。「ボ株積極?消極?問題」という言い方もされました。
これにより予備校の講師の間でも意見が分かれたり、炎上沙汰になった事を記憶しております。
私は、筆記試験に合格した後、口述試験に参加しました。口述試験で最初にお会いした同期合格者に話しかけた際、最初に話題になった(相手から振ってきた)のがこの件(ボ株消極?積極?)です。そのくらいこの問題は大議論を呼びました。
ボ株とは「募集株式の発行」の略です。
採点疑義と出題疑義
【司法書士試験】平成26年度不動産登記法(記述)考察に採点疑義があったことは述べました。
採点疑義があるとは、問題にはきちんとした正解があり、正解ははっきりしているが、採点の仕方が理不尽ということです。
これに対し、平成27年度商業登記法(記述)には出題疑義がありました。
出題疑義とは、採点以前の問題として、問題に狂いがあるのではないかという事態です。
ボ株(募集株式の発行)の手続き
これを説明する前提として「積極事項」「消極事項」について理解しておく必要があります。「参考記事」のリンク先にて説明しておりますが、既に熟知している方は飛ばしてください。
商業登記法なので、当然会社が登場します。出題疑義とは、問題文中で会社が募集株式の発行をしているのですがそれが可能なのかどうか(積極なのか?消極なのか?)という問題です。
まず、問題の途中(第1欄)で、その会社が取締役会「非」設置会社から取締役会設置会社に機関設計を変更しています。(元々、取締役会非設置会社のため非公開会社です。その点に変更はありません。)
募集株式の発行は、大雑把に言えば次の手順で行います。
- 会社に依る募集事項の決定
- 出資者への通知又は広告
- 出資者に依る引き受けの申し込み
- 会社に依る申込者への株式の割り当て
- 会社に依る申込者への通知
- 申込者に依る出資の履行
このとき会社による「募集事項の決定」は非公開会社の場合、株主総会特別決議で決議します。
一方、「会社に依る申込者への株式の割り当て」は、割り当てる株式が譲渡制限株式である場合は、取締役設置会社の場合は、定款に別段の定めがない限りの取締役会で決議します。(非公開会社なので、当然、割り当てる株式は譲渡制限株式です。)
非公開会社かつ取締役会設置会社の場合、「募集事項の決定」の決議機関と「会社に依る申込者への株式の割り当て」の決議機関が違うことから、この論点は非常に紛らわしいのです。(この論点は、オートマシステム<記述式>に記載があり、非常に有名な論点です。)
次に、問題の途中(第2欄)で、その会社が募集株式を発行します。第1欄で会社は取締役会設置会社になっています。従って、まさに上記の規定に該当します。非公開会社かつ取締役会設置会社の場合に当たりますから、「募集事項の決定」は株主総会特別決議で行い、「会社に依る申込者への株式の割り当て」は、取締役会が決議しなければなりません。
具体的な出題疑義
しかし、問題文では双方を株主総会特別決議で行っているのです。従って「会社に依る申込者への株式の割り当て」の部分は無効な決議であり、「募集株式の発行」は消極になります。つまり、この会社は募集株式を発行できません。
以上が正解です。
しかし、平成27年度商業登記法(記述)では、「登記すべきでない事項とその理由を書きなさい。」という付属的な問が出題されませんでした。
「【司法書士試験】「積極事項」「消極事項」とは何か?」にて説明しているように、これまでは、問題文中に消極事項がある場合は「登記すべきでない事項とその理由を書きなさい。」が出題されることが通例だったのです。
これが出題疑義となりました。
先も説明したように、この論点は有名な論点ではありますが、非常に有名な論点である一方、非常に紛らわしいのです。これに「登記すべきでない事項とその理由を書きなさい。」が出題されなかったことも相まって、多くの受験生は、これが消極になるとは考えもしませんでした。予備校の講師でさえ、その考えに及ばなかった人がいたのではないかという噂が流れたほどです。
ちなみに、私自身も多くの受験生と同じでした。消極になるとは考えもせず、「募集株式の発行」を積極だとして答案に記載してしまったのです。そして、そう記載したものの、時間切れになってしまい、商業登記記述の答案を3割~4割白紙にしたまま提出する羽目になりました。
ボ株積極?消極?
そこで、次のように意見が分かれました。
- 募集株式の発行は、法的に不可能なのだから、消極が正解であり、消極を前提とした採点がされる。
(ボ株消極派) - 募集株式の発行は、出題ミスである。従って、客観的な正解は消極であるが、積極を前提とした採点がされる。
(ボ株積極派)
ボ株消極派の根拠はもうひとつあります。それはこの年の記述問題のボリュームが例年にないほど非常に多く、積極だと仮定するならば多くの方が時間切れを起こすが、消極とすれば答案に記載すべき分量が適切な量に収まる。というものです。(積極で最後まで書き切ったと言う猛者もいらっしゃいました。)
これに加えて、この論点が非常に有名であることも挙げられます。マイナー過ぎる論点や実務的過ぎる論点なら出題ミスの可能性が有りますが、そう考えるには無理がある論点なのです。
辰巳さんの海老澤毅講師はボ株消極派でした。(こちらをご覧ください。)また、東京法経学院さんもボ株消極で試験当日に模範解答を出していました。
ボ株積極派が出題ミスとする根拠は「登記すべきでない事項とその理由を書きなさい。」が無いことです。
これは、炎上沙汰になりました。
予備校の模範解答さえも消極と積極に割れました。
受験生や予備校から、法務省へも批判の矛先が向けられました。
管理人の意見
私はボ株消極派でした。(つまり、自分で答案に書いたことが間違いだと認めました。)もしも、ボ株積極によって採点され、自分が合格して、客観的な正解を書いた方が不合格になったならば、自分が合格した事実を素直に喜べません。もしそうなれば、不正行為(カンニング)して合格したも同然だと感じたと思います。
私は自分が記述の基準点を超えているかどうかギリギリのラインであると見積もっていたため、試験終了後、結果発表までの間、非常に気分が悪かったのを覚えています。合格しているかどうかということに対する不安と、「合格しているとしても、それを素直に喜べるか?という葛藤」の2重の悩みに蝕まれていました。
他の方も同様だったと思います。もっと言えば、ボ株積極派もこの時期は強烈な不安を感じて、非常に気持ちが悪かっただろうと思います。皆さんご存じかとは思いますが、出題疑義が無くとも、この時期は合格が近い人ほど、強烈な不安を感じるものです。
結局どっち?
結局、どちらで採点されたかは不明とされています。
実は、私は辰巳さんの分析結果から、どちらの基準で採点されたのか情報を得ているのですが、公開してはいけないことになっていたと思いますので、ここには書きません。(採点基準の情報を得る方法については、別稿にしたいと思います。)
仮に合格したとしても、自分が合格した事実を素直に喜べないのではないかという懸念があったのですが、結果を見ると素直に喜べました。
それは、私は記述の基準点に11点を上乗せして合格していたからです。この得点なら、かなり余裕があることになり、積極で採点されようが、消極で採点されようが、合否に影響しなかったことになります。
皆さんへ
そういうこともあるので、皆さんも、ギリギリでの合格を目指すのではなく、圧倒的な得点を出して合格することを目指してください。精神衛生上そちらの方がよろしいです。
※現在の合格ゾーン等に収録されている問題では出題疑義の部分は修正されているのではないかと思います。
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